火の七日間 ~菊川高校文化祭実行委員長・有沢ナナミの戦い~
サメ。 サメとは軟骨魚綱板鰓亜綱に属する魚類のうち、鰓裂が体の側面に開くものの総称を云う。パニック映画や、アニマル番組でおなじみの『あの』サメである。
『地下室に食糧があるらしい。取ってくる』 サスペンス映画でよく聞かれる台詞だ。 この台詞を発した人間は、近いうちに死体になって発見されることになるというのは、お約束だ。
「有沢、大丈夫か?」 見上げると、養護の山本先生の顔が覗き込んでいた。
文字通り、顔から火が出るような気持ちだった。 旧校舎への足取りも自然と急ぎ足になってしまう。
あーもうイラつく。まだ胸がムシャクシャするわ。 相馬さんを追いだした数分後、アカリが来たので一緒に昼食にしようということになった。卵焼きをつつきながら、さっきの腹立たしい出来事の顛末を散々グチる。
生徒会室にはまだ誰も来ていなかった。 仕方がないので私は棚から自分専用のマグカップを出し、備え付けのポットからお茶を注いだ。
「や、やっと終わった……」 この日の放課後、私は生徒会室への道のりを、砂漠で遭難した旅行者のような気分で進んでいた。 あぁ……目の前の景色がぐらつく、足に力が入らない……何よりもまずお腹が減った……。
「委員長、川口センパイお疲れ様でーす」 また一人、後輩が帰っていった。もう残っているのは私とアカリを含めても、数人だ。壁の時計に目をやると、四時半を指していた。 「私達も帰ろっか」
「有沢センパイさよーならー」 「はい、さよーならー、気をつけてかえるのよー」 教室を出てゆく後輩達に手を振ると、私はイスの背もたれに身を預けた。バケット式のシートが柔らかく私の体を包み込む。
体育倉庫の屋根から見える景色は、いつもとは違って見えるような気がする。 東の空が白じんできた。もうすぐ夜明けだ。校舎の時計は五時十分を指している。