2019-03-01から1ヶ月間の記事一覧
ホールの反対側にもうひとつ出入り口が見えた。 「あそこから出たら、武道場まですぐだぜ」 私たちは足早に歩を進める。
してはいけないと思いつつ、後ろを振り返ってしまう。何かに追われているとき、振り返るという行為は最悪の悪手だ、話しをどこかで聞いた。しかし、自分を追ってきているものが、どれだけの距離にいるのかを知りたいと思うのは、生物としての本能ではないだ…
チカゲちゃんだった。チカゲちゃんのその意外な一言に、私とジュンは同時に退魔師の少女に視線を向ける。
最初は雷でも落ちたのかと思った。それくらいの衝撃音だった。
「では、これからの作戦を言います」 チカゲちゃんが改まって話し始めた。 「これからやるのは、釣りです」 「釣り?」 私とジュンの声が見事にハモった。
窓の外に写る正体不明の光、謎の明滅。 これは『目』だ。
一、 ……夢を見た。 周りは青、青、青。 右を見ようと左を見ようと、上を見ても下を見ても、目に入ってくるのは青に塗りつぶされた景色ばかりだった。
ジュンが最初に向かったのは、体育倉庫に併設されている部室棟、その片隅にある空手部の部室だった。 そこの男子更衣室の中に入っていったかと思うと、一分も経たないウチに、何かを手に出てきたのだった。ステンレス製の鍋だった。
「では今夜中にやっておくべきことを言います」 チカゲちゃんのその言に私は頷いた。 「えー今からやんのかよ。もう九時半まわってるじゃん」 ジュンが渋る。そんな空手少女を私はたしなめる。
学校にはものの十分足らずで到着した。チカゲちゃんに校門のすぐそばで停まってもらう。そして改めて我が校を見上げる。 校門にはアーチが据え付けられていて、そこには「第80回 菊川高校文化祭」の文字が踊っている。
壁の時計はもうすぐ四時四十五分になろうとしていた。 ジュン、チカゲちゃんとの待ち合わせの時間まであと十五分。まだ約束の時間にはなっていない。とはいうものの、なんとなく落ち着かない。それは私が学校に巣くう妖怪を退治するという特殊な使命を背負っ…
宮本先輩の顔は憔悴しきっていた。 目の下には黒いクマができている。顔は血の気が引いていて、流れるようだった黒髪も魔女のように乱れていた。昨日からの混乱に対応していたのだ。当然といえば当然かもしれない。
風月丸を倒した山鰐は、近くにあったたこ焼き屋のテントに襲いかかる。天幕に食らいつくと、一気に引きちぎった。布が裂ける音と金属が軋みあう不快な和音が、私の鼓膜を突き刺した。それにともなって、生徒たちの悲鳴と怒号が響き渡る。 そこからはまさに阿…
最初は本当に飛行機でも落ちてきたのかと思ったくらいだった。それほど大きな地鳴りだった。しかし、それは違った。
私自身はそうは思っていないのだが、アカリによれば私は真面目な部類の生徒にカテゴライズされるそうだ。ジョハリの窓ではないのだが、自分から見た自分と、他人から見た自分というものにズレが生じるのはしょうがないとは思える。しかし、アカリには何度も…
翌日の朝八時、私とジュンとチカゲちゃんの三人は生徒会室の前にいた。これから宮本先輩に文化祭中止の直談判をするただ。 二回深呼吸をしてからノックする。「失礼します」と一言断ってからドアを開けた。
少女はふぅと溜息をついた後、錫杖を両手で持って、まるで手品のように杖を短くする。キィンという乾いた音が、鬱蒼とした林の中に流れる。「風月丸もういいわ」彼女がそう告げると、黒マントの男は吸い込まれるかのように、少女の影の中に消えていった。
「ね、ねぇ、あなたって」 「ごめんなさい、後で全部説明します」 少女は私の問いを遮って、ブレザーの内ポケットにそのたおやかな指を滑り込ませる。取り出された手の中には、一枚の紙片があった。護符だ。
なっ、何なのこれは? その子供の腕ほどの太さの胴体を追って行って、私は恐怖のあまり、失神しそうになった。
そしてしばらくの時間、電池が切れかけたオモチャのように二度、三度尾を振った後……動かなくなった。 「ジュン! 大丈夫!?」
サメ。 サメとは軟骨魚綱板鰓亜綱に属する魚類のうち、鰓裂が体の側面に開くものの総称を云う。パニック映画や、アニマル番組でおなじみの『あの』サメである。
『地下室に食糧があるらしい。取ってくる』 サスペンス映画でよく聞かれる台詞だ。 この台詞を発した人間は、近いうちに死体になって発見されることになるというのは、お約束だ。
「有沢、大丈夫か?」 見上げると、養護の山本先生の顔が覗き込んでいた。
文字通り、顔から火が出るような気持ちだった。 旧校舎への足取りも自然と急ぎ足になってしまう。
あーもうイラつく。まだ胸がムシャクシャするわ。 相馬さんを追いだした数分後、アカリが来たので一緒に昼食にしようということになった。卵焼きをつつきながら、さっきの腹立たしい出来事の顛末を散々グチる。
生徒会室にはまだ誰も来ていなかった。 仕方がないので私は棚から自分専用のマグカップを出し、備え付けのポットからお茶を注いだ。
「や、やっと終わった……」 この日の放課後、私は生徒会室への道のりを、砂漠で遭難した旅行者のような気分で進んでいた。 あぁ……目の前の景色がぐらつく、足に力が入らない……何よりもまずお腹が減った……。