9月6日(木)⑦ 体育倉庫への潜入
学校にはものの十分足らずで到着した。チカゲちゃんに校門のすぐそばで停まってもらう。そして改めて我が校を見上げる。
校門にはアーチが据え付けられていて、そこには「第80回 菊川高校文化祭」の文字が踊っている。
模擬店のテントやら飾り付けやらで、いつもとは違った校舎。しかし、今のところ、校内には誰もいない。山鰐が出て危険だということで、校内は立ち入り禁止になったのだ。警備員さんもいないし、食堂のおばちゃんたちも引き上げている。
例外的に、さっきまで宮本先輩たち生徒会のスタッフと先生たちとで今度の対応について話し合っていたのだが、山鰐のせいで、別の場所に移動したらしい。先輩からメールで知ったのだが、市内のオフィス街に貸し会議室を借りたのだそうだ。
「さて、では行きますか」
私の横でジュンがポキッと拳を鳴らした。
「よし、じゃあ行くわよ」
チカゲちゃんが頷いて、アクセルを踏んだ。
校門前には街灯が点いていてまだ明るかった。でも、さすがにこの一帯、すなわち旧校舎の周辺になると、灯りが少なくなってきた。少なくなって、というのは正しい表現ではないかもしれない。正確に言うと『全く無くなって』かもしれない。月が煌々と照ってくれていたらまだマシなのかもしれなかったけど、生憎お月様は一時間ほど前から雲の向こうに隠れたままだ。
まぁ旧校舎の周りに照明塔を作るお金なんてこの学校にはないだろうし、そもそも旧校舎なんていう昔の遺物の周りをライトで照らす必要性もない。だから学校の施策をイチ生徒である私が非難する資格はないだろう。
しかし、今だけは言わせてほしい。誰か照明を持ってきて。
暗闇に目が慣れてきたとはいえ、まだまだ視界は良好とは言い難い。今自分がいるのが勝手知ったる場所、すなわち自宅だったりしたら明りがなくても大丈夫かもしれない。
しかし、このブナ林という野生味溢れる場所だと、一寸先が暗闇という状況は不安としか言いようがない。
だったら懐中電灯なり、ペンライトなり自分で照明道具を持って来れば良いではないかと思われるかもしれないが、それができない理由があるのだ。なぜなら単純に懐中電灯を忘れたからである。
今現在、午後七時三十四分。私とジュン、チカゲちゃんの三人は、授業の終わった学校の敷地の中に入ってきているのだ。通常、夜の学校というものは校舎の扉、窓すべてが施錠され、校門も鍵がかけられる。
しかし、今日だけは許可をもらったので、学校に泊まり込むことが許されている。普段なら人っ子ひとりいないはずの菊川高校の敷地内に、私達三人の姿があった。目的はもちろん、皆で楽しくお泊り会……ではなく山鰐の討伐である。
前に生物の授業で習ったんだけど、暗闇の中に入ると、光を集めやすくするために瞳孔が大きくなるらしい。人間の体と言うのは便利にできているものだ。私は腕時計に目を落とす。蛍光塗料の塗られた文字盤が、緑のバックライトに照らされる。しかし、改めて考えてみると、こんな時間に学校にいるというのも変な気分だ。私は部活をしていないので特にそう感じるのかもしれない。でも部活をしていても、こんな時間まで学校に残っていることなんてそうはないだろう。
チカゲちゃんの運転するクルマでやって来た私たちは、まず教職員用のガレージにワンボックスを停めた。本当ならダメなんだろうけれど、今日ばかりはいいよね。
それから私たちは、今回の山鰐討伐作戦の作戦本部となる場所兼、今日の宿泊施設に向かって移動しているのだった。宿泊施設といっても一流ホテルみたいな良い所じゃあない。私たちは今晩、学校の柔道場に泊まることにしたのだ。他にも色々候補を考えたのだが、シャワー室に近くて、比較的暖かそうな所で、畳が敷いてある場所となったら、柔道場しかなかったのだ。まぁ板の間で寝るよりはマシだろうという消極的な理由でもあったのだが……。
そんなこんな考えていると、五メートル先の繁みの中から小さな光が見えた。おそらくジュンのスマホの光だろう。それが大きく左右に振られる。事前に決めていた『OK』のサインだ。
「よし行きましょう、ナナミさん」
私の後ろにいたチカゲちゃんが言った。
言うが早いか、退魔師の少女は私を追い越してジュンがいるだろう暗がりの中に消えていった。私も慌ててその後を追う。
チカゲちゃん。本名服部チカゲ。今回の山鰐討伐作戦に協力してくれることになった退魔師……。厳密に言うと、私が彼女を雇った形になるのだけれど。でもその費用が五百万円……。十七歳にして五百万の借金もちになってしまった。こんなことお父さんやお母さんが知ったらなんて思うだろうか……。
しかしながら、今は後悔している時ではない。今の私に……いや私たちには重大な使命が課せられているのだから。
それはズバリ『山鰐の退治』。
我が校に潜伏し、文化祭を台無しにしようとしている正体不明の怪物をやっつけねばならないのだ。
まぁ山鰐の方も山鰐の方で事情があるのだろうけれど。せっかく楽に食事にありつける餌場、イコール菊川高校をみつけたのに、そこから追い出されようとしているのだ。彼(彼女?)からしてみれば私たちの方が悪者にみえるだろう。
しかしながら、私たちと山鰐では立場が違う。
山鰐にとって私たちは餌で、この菊川高校は餌がうろうろしている絶好の食堂なのだろう。
だが私たち人間にとっては、この学校は大事な場所であり、山鰐はそこに害なす敵だ。早く排除せねばならない。
しかし、山鰐に対しては多少の同情も禁じ得ない。動物が餌を探して食べるのは、自然の摂理に乗っ取ったものだ。だから山鰐のしていることは動物としては至極自然なものだ。まぁ山鰐が動物かどうかという点は置いといて。
山鰐にしてみたら、餌を探して食べているだけなのに、それを邪魔され、あまつさえ「出て行け」と言われているのだ。理不尽きわまりないとはこのことだろう。
しかし、私たちは人間だ。山鰐とは相容れることはない。
藪の中をしばらく進んでいくと、目的の場所についた。
スマホの電灯の中に浮かび上がってきたのは……。白い壁だった。ここは体育倉庫だ。
体育倉庫といっても、武道場と更衣室とシャワールームが同じ建物の中にさらに体育倉庫が入っている。分かりやすく言えば「総合体育施設」とでも表現できるだろうか。
その体育倉庫の窓に向かって、ジュンがまるでウサギののようにピョンピョン跳びはねている。よく見ると右手にはそこらで拾ってきたのだろう、木の枝が握られていた。その細い枝を、窓のサッシに引っかけて開けようとしている。でも体育倉庫の窓には鍵がかかっているはずでは?
「昼間のうちに忍び込んで、鍵を開けといたんだ」
私の心の内を読んだのかそうでないのか、ジュンが答えた。
体育倉庫の窓はけっこうな高さにあった。ジュンは女子としては背の高い方に入るが、その彼女がジャンプしても届くのは難しそうだった。
「よっ、ほっ。くそっ、中々うまくいかねぇな」
枯れた枝を手に悪態をつくジュンだった。
この枝じゃだめだとジュンは右手に握った枝を放り投げた。それからもっと長い枝を見つけ出して、それでまたチャレンジを続けた。
「よし、もうちょい……。よっと」
ジュンの苦労が実って、窓がわずかばかり開いた。少しでもスペースが開けばこちらのものだ。ジュンはここが好機とばかりに、一気に窓を開きにかかった。
「これだけ開けば十分だろ」
ジュンは画竜点睛を得たとばかりに手をパンパンと払った。
「よし、次はっと……」
言うが早いか、ジュンは体育倉庫の壁に背をつけ、腰を落とす。そして両手を体の前で組んだ。端から見ると、バレーのレシーブのような格好だ。
「よし、チカゲ。来い」
するとチカゲちゃんはジュンの前で靴を脱ぎ、右足をジュンの手の上にかけた。
「よし、行くぞ。イチ、ニのサン!」
かけ声とともにジュンが腕を振り上げ、チカゲちゃんの肢体が宙に跳び上がった。
チカゲちゃんは、窓内に器用に体を滑り込ませ、少し足をバタつかせたかと思うと、瞬く間に倉庫内に消えていった。
大丈夫かな……。と一瞬思ったが、しばらくするとチカゲちゃんが、ひょっこり顔を出した。
「こっちは大丈夫です。二人とも来てください」
どうやら向こうの安全は確保してくれたようだ。
「よし、ナナミン。来い」
再びジュンは腰を落とし、件のレシーブの体勢をとった。
え……ちょ、ちょっと待ってよ。こんな格好じゃ……。
ちなみに今の私の服装は、学校指定の制服だ。つまりワイシャツの上に校章入りのセーター。下は膝上まであげたチェックのスカートだ。
ジュンの手助けがあるとはいえ、あの高さの窓から中に入るのはけっこうな重労働だろう。さっきのチカゲちゃんみたいに足をバタつかせたらそのぅ……スカートの中が……。
私の心中を察してか察しておらずかは分からないけれど、ジュンはため息を一つついた。
「もぅ、早くしろよナナミン。置いてっちまうぜ」
でも、そんなこと言っても……。
「だからスカートなんかやめて、ジャージで来いっつったんだよ」
うぅ……。それを言われてしまうと何も言い返せない……。
ちなみにチカゲちゃんは下はジーンズを履いていて、上は長袖のシャツだ。ジュンは私と同じように制服を着ているものの、スカートの丈は膝の少し下にしている。それに加えて黒のスパッツを履いている。スポーツ少女らしい装いだ。
「大体ここには女しかいねぇんだ。誰にパンツ見られてもいいじゃんかよ」
確かにそうなんだけど、今日の私の下着の柄は……。今朝、あんな柄の下着を選んだ私自身を恨みたくなってきた。
「ナナミさん、急いでください」
木の枝くらいの高さから、チカゲちゃんが急かしてくる。うぅ……こうなったら仕方がない。そもそもこんなに暗いんだ。パンツの柄なんて見えないだろう。私は意を決してローファーを脱いだ。
ジュンの手の上に右足を乗せる。
「イチ、二のサン!」
かけ声とともに私の体は宙に舞い上がった。無重力感が全身を覆う。私の身体能力では、到底届かない高さまで浮き上がる。無重力感に包まれた瞬間に、私の右腕をチカゲちゃんが掴んだ。急いで左手で窓のヘリをつかみ、両足で壁を蹴る。しかし、体育倉庫の壁には、取っかかりとなりそうな突起物は無かった。それに加え、壁はまるで玉子の表面のようにツルツルで、私が壁に足をかけ、懸命に登ろうとしても私の足はむなしくずり落ちて行くばかりだった。
「ナナミン、上半身を中に入れろ!」
足の裏が、けっこうな力で押し上げられる。おそらく、というか確実にジュンが持ち上げてくれているのだろう。
私は、スカートの中身が見えるかどうかに気を回す余裕もなくなった。
まるで溺れたかのように、手足をバタつかせているといつの間にか倉庫の中に入ってしまっていた。
辺りを見渡す。ツンというにおいが鼻孔をくすぐる。ここまで暗い夜道を歩いてきたので、目が暗闇になれるのも早かった。
どうやら私はうずたかく積み上げられたマットの上にいるようだった。視界の下、暗闇の中にバスケットボールを入れたカゴが見える。その横にはバレーボール用のボール入れ。布製の生地にはメーカーのロゴがプリントされている。その黄色と赤の派手なマークは、闇の中でもよく見えた。壁には鉄製の支柱が所在なげに立てかけられており、その下には緑色のネットが束ねて寝かされている。
間違いない、昼間とは全然印象が違うが、ここは私たちがいつも使っている体育倉庫だ。
日中は生徒たちの騒がしい声が聞こえてくるこの場所も、当然かもしれないけれど、今の時間は怖いくらいに静まりかえっている。
私がゴクリと唾を飲み込んだとき、「よっと」という声とともに、チカゲちゃんに引き上げられて、ジュンが窓から入ってきた。まるで映画に出てくる怪盗のような身のこなしだ。
チカゲちゃんが窓から外を見渡してから、ゆっくりとガラス戸を閉めて、静かにロックをかける。
「えーと、ちょっと待ってろよ」
暗がりの中でジュンの声が言った。モソモソと何かを懐を漁っている様子だ。
しばらくすると、マットの上に丸い光の輪ができた。ジュンがスマホの懐中電灯アプリを起動させたということが分かった。下からライトが当たったせいで、ジュンの表情が少し不気味に見えた。
「よし、二人ともちょっと座ってくれ」
その声で、私、ジュン、チカゲちゃんの三人はマットの上で車座になった。
「これ見てくれ」
ジュンはブレザーのポケットから、小さなパンフレットを取り出してマットの上に広げた。それは、我が菊川高校のPR用のパンフレットだった。表側にうちの制服を着た、ポップなキャラクターが描かれていて、その脇にはフキダシで「菊川高校へようこそ!」というロゴが描かれている。
四つ折りのパンフの二枚目と三枚目にかけて、菊川高校の全体図が載っている。学校全体を俯瞰して見た図だ。その上を細い指がつぅとなでる。
「アタシたちが今いるのはココだ」
と、ジュンは体育倉庫を指さした。全体図の左側、方角で言うと真西にあたる。
次にジュンの指は図の左上に移動した。旧校舎のある場所だ。
「そして例の化け物サメは、ココに隠れてやがる。そうだなチカゲ?」
ジュンに訊かれて、チカゲちゃんは小さく頷いた。
「そしてアタシたちは、今日を含めて二日以内に、例の山鰐とやらを退治しなけりゃあならない」
私はチカゲちゃんに目をやる、その真剣な目が今のジュンの発言を首肯したように思えた。
「具体的にはどうやってあのサメをやっつけるんだ?」
「まずは結界を張って、この学校から出られないようにします。万が一にも逃げられたら、外部の人に迷惑がかかってしまうので」
「それからどうするの?」
私はチカゲちゃんに問う。
「これを使います」
退魔師が懐から出したのは、一枚のお札だった。黄色の地の札に、紅い文字でなにやら書いてある。
「妖怪専用の封印の札です。これにあの山鰐を封印します。ただ……」
「ただ……どうしたの?」
「この札の力を発動させるには、少しの間、経文を唱え続けなければ鳴りません。その間は私は全くの無防備となってしまいます」
「少しの間って……どれくらい?」
「三分……ほどです」
チカゲちゃんは少し言いごもった。しかし、彼女が口ごもったのも当然のかもしれない。なぜなら、その三分の間、チカゲちゃんは山鰐との戦いに参加することができないということなのだ。それはすなわち、私とジュンの二人で山鰐の相手をしなければならないということだ。
ジュンもそのことが分かったのだろう、ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえてきた。
「私が経文を唱えている間、風月丸を援護にいかせます。その間、なんとかお二人で持ちこたえていてください」
「何とかってなぁ……それで何とかなったらいいんだろうけどよ……」
ジュンは不安そうに頭を掻いた。ジュンの反応も当然といえば当然だろう。妖怪退治の専門家であるチカゲちゃん抜きで、三分の間、あの山鰐の相手をしなければならないのだ。いくらあの式神が助けてくれるとはいえ、不安が残るのは仕方がない。
「ジュンさん、これを」
チカゲちゃんがリュックの中から、何かを取り出した。
三十センチほどの大きさのものが、ペアになっている。これは……。
「グローブじゃん!」
私の横でジュンが驚いたような声を出した。
言われてよくよく見てみると、それは確かに格闘技の試合につけるようなグローブだった。私もテレビで見た覚えがある。しかし、こんなものをどうしてチカゲちゃんが持っているのだろうか?
「これは特殊な布で織られた、グローブです。主に格闘戦を得意とする退魔師が使うものです」
格闘を得意にしている退魔師なんているんだ。退魔師にもいろいろ種類があるのね。
「このグローブの表面には経文が書かれていて、これで殴るとと妖怪や悪霊にダメージを与えることができます」
「へーこれ良いじゃん」
ジュンは渡されたグローブを、実際にはめてみた。それから、表から裏から、しげしげとグローブを眺める。やけに様になっているような気がする。まぁ実際に空手の有段者なのだから、似合うのは当然といえば当然のことか。
「でもできれば山鰐との近接戦闘は、避けてください。いくら強いとは言っても、ジュンさんは妖怪退治に関しては素人です。下手に手を出すとどんなことになるか……」
「分かったよ。いざというときにだけ使わせてもらうよ」
ジュンは、両方の拳をガツンと打ち付けた。
「ナナミさんにはこれを」
そう言ってチカゲちゃんはリュックの中をゴソゴソやり始めた。
「私にもあるの!?」
はっきり言って意外だった。戦いになったときに、私に役に立つことなんて無いと思うのだけれど……。
「これです」
ソフトボール大の石だった。ガラスのように透き通っていて、目の覚めるような水色をしている。まるでサファイアのようだ。
「綺麗ね。これは何?」
「結界石です」
「けっかいせき?」
「ナナミさん、もし山鰐に襲われたら、迷わずこれを地面にたたきつけて壊してください」
「いいの? こんなに高そうなもの」
「これを壊すと、その周囲四メートルほどが結界に包まれます。その中には、妖怪の類は絶対に立ち入ることはできません」
「なるほど、防御専用の道具ってワケか」
ジュンがアゴに手をやりながら頷いた。
これの効用は分かった。でも今の説明を聞いている限りでは……。
「ナナミさん、よく聞いてください。山鰐と戦闘になり、もし本当に危なくなったら……」
なったら?
「迷わず結界石を使ってください。山鰐も結界で守られた人間を無理に襲うことはしないはずです。ナナミさんが結界石を使ったら、ヤツもすぐに諦めるでしょう。そうしたら」
うん。
「一目散に逃げてください」
やっぱり。
予想していたことだが、やはり私はチカゲちゃんに戦力に数えられていないようだ。でもそれは仕方がないのかもしれない。なにしろ私は約一年ほど弓道部にいただけの普通の女子高生なのだから。
「ぷっ、ナナミンよぅ、チカゲに戦力に数えられてねぇぞ」
ジュンが吹き出した。
「うるさい」
「まぁでも良いじゃんかよ。ナナミンにはアタシとチカゲが山鰐を退治するところを見届けるっていう仕事があるじゃあねぇか。それも大事な仕事だよ」
ジュンは私の肩をポンポンと叩いた。
「そうですよナナミさん。大体ナナミさんは今のこの時間に家にいるっていう選択もできたんですから。それをせずに、この危険な任務に就いている、それだけでも凄いと思います」
チカゲちゃんにそう言ってもらえたら、それはとても嬉しいことである。
「そうそう、だからナナミンは何も気にするこたぁねーぜ」
でもジュンに言われるのは、ちょっとシャクにさわる。
「はぁ!? 何でアタシだけシャクにさわるなんて言うんだよ」
ジュンのそのツッコミで、場が少し和らいだ気がする。チカゲちゃんの口の端が少しほころんだ。
「全くぅ……。あ、そういやナナミン。これ言うの忘れてたぜ」
何?
「さっきナナミンを持ち上げたとき、チラッと見えたんだけどさ、高校生にもなって熊さん柄のパンツってどうなんだよ? もっと年相応のヤツをさ……ってゴフッ!」
暗くてよく分からなかったが、ジュンのみぞおちの有りそうな所に正拳付きを叩き込んでおいた。