宮本先輩の顔は憔悴しきっていた。 目の下には黒いクマができている。顔は血の気が引いていて、流れるようだった黒髪も魔女のように乱れていた。昨日からの混乱に対応していたのだ。当然といえば当然かもしれない。
風月丸を倒した山鰐は、近くにあったたこ焼き屋のテントに襲いかかる。天幕に食らいつくと、一気に引きちぎった。布が裂ける音と金属が軋みあう不快な和音が、私の鼓膜を突き刺した。それにともなって、生徒たちの悲鳴と怒号が響き渡る。 そこからはまさに阿…
最初は本当に飛行機でも落ちてきたのかと思ったくらいだった。それほど大きな地鳴りだった。しかし、それは違った。
私自身はそうは思っていないのだが、アカリによれば私は真面目な部類の生徒にカテゴライズされるそうだ。ジョハリの窓ではないのだが、自分から見た自分と、他人から見た自分というものにズレが生じるのはしょうがないとは思える。しかし、アカリには何度も…
翌日の朝八時、私とジュンとチカゲちゃんの三人は生徒会室の前にいた。これから宮本先輩に文化祭中止の直談判をするただ。 二回深呼吸をしてからノックする。「失礼します」と一言断ってからドアを開けた。
少女はふぅと溜息をついた後、錫杖を両手で持って、まるで手品のように杖を短くする。キィンという乾いた音が、鬱蒼とした林の中に流れる。「風月丸もういいわ」彼女がそう告げると、黒マントの男は吸い込まれるかのように、少女の影の中に消えていった。
「ね、ねぇ、あなたって」 「ごめんなさい、後で全部説明します」 少女は私の問いを遮って、ブレザーの内ポケットにそのたおやかな指を滑り込ませる。取り出された手の中には、一枚の紙片があった。護符だ。
なっ、何なのこれは? その子供の腕ほどの太さの胴体を追って行って、私は恐怖のあまり、失神しそうになった。
そしてしばらくの時間、電池が切れかけたオモチャのように二度、三度尾を振った後……動かなくなった。 「ジュン! 大丈夫!?」
サメ。 サメとは軟骨魚綱板鰓亜綱に属する魚類のうち、鰓裂が体の側面に開くものの総称を云う。パニック映画や、アニマル番組でおなじみの『あの』サメである。
『地下室に食糧があるらしい。取ってくる』 サスペンス映画でよく聞かれる台詞だ。 この台詞を発した人間は、近いうちに死体になって発見されることになるというのは、お約束だ。
「有沢、大丈夫か?」 見上げると、養護の山本先生の顔が覗き込んでいた。
文字通り、顔から火が出るような気持ちだった。 旧校舎への足取りも自然と急ぎ足になってしまう。
あーもうイラつく。まだ胸がムシャクシャするわ。 相馬さんを追いだした数分後、アカリが来たので一緒に昼食にしようということになった。卵焼きをつつきながら、さっきの腹立たしい出来事の顛末を散々グチる。
生徒会室にはまだ誰も来ていなかった。 仕方がないので私は棚から自分専用のマグカップを出し、備え付けのポットからお茶を注いだ。
「や、やっと終わった……」 この日の放課後、私は生徒会室への道のりを、砂漠で遭難した旅行者のような気分で進んでいた。 あぁ……目の前の景色がぐらつく、足に力が入らない……何よりもまずお腹が減った……。
「委員長、川口センパイお疲れ様でーす」 また一人、後輩が帰っていった。もう残っているのは私とアカリを含めても、数人だ。壁の時計に目をやると、四時半を指していた。 「私達も帰ろっか」
「有沢センパイさよーならー」 「はい、さよーならー、気をつけてかえるのよー」 教室を出てゆく後輩達に手を振ると、私はイスの背もたれに身を預けた。バケット式のシートが柔らかく私の体を包み込む。
体育倉庫の屋根から見える景色は、いつもとは違って見えるような気がする。 東の空が白じんできた。もうすぐ夜明けだ。校舎の時計は五時十分を指している。
木を隠すなら森の中、という格言がある。この言葉の意味するところが、もし何かを隠すときには、似たようなものの中に隠せというのならば、「女子高生を隠すときは、朝のホームルーム前の教室に隠せ」と言うことになるだろうか。
――何か布団が重いな―― 半分夢心地の中にいた僕はそう思った。昨日の夜、布団を二枚かけたっけ? 夢の中で一瞬考え込んだ後、こう結論づけた、 「二度寝しよう」
一、 日下部涼太<くさかべ・りょうた>はクラブハウスを出て、空を見上げる。はるか頭上、視界の彼方は灰色の雲によって覆い尽くされていた。 まるで涼太の今の心境を、そのまま写しこんだような空模様だった。 随分と肌寒い。最近、急に冷え込んできたような…
一、 出ない出ない出ない。 自室のフローリングを芋虫のように転げまわっても、ヘビメタみたいにヘッドバンギングしても、上半身裸で窓から「あんどろぎゃのーす!!」と叫んでみても出てこない。おっと、俺は別に変なクスリをやってるわけではないぞ。その…
「話ってなに?」 クラス委員長の西沢美樹はやってくるなり、そう訊いた。 俺が西沢を呼び出したのは、俺が普段、勉学に励んでいる二年五組の教室。放課後なので俺と西沢以外、人っ子一人いない。 なぜ、俺こと木下洋介が西沢を呼び出したかというと、俺が西…
覗きこんでいたのは中年の車掌だった。「お客さん、鮎妻駅は次ですよ」 四十代中頃といったところだろうか、角ばった顔をした男だった。逆光の中で、その四角い輪郭がくっきりとした長方形を形作っていた。 その後ろに見えるのは、上からダラリと垂れ下がる…
「美味しい!!」 網の上のタン塩を口に運ぶとミチルは感嘆の声を上げた。 「やっぱり焼肉って最高~ 特に他人の奢りで食べるタン塩は」 そう言って意地悪そうに俺のほうをちらりと見る。
「アキラ、あんたいい加減にしなさいよ」 私は布団を頭から被った幼馴染にそう言った。
僕がマンガを描きはじめたのが、17年の10月からだ。 なので、そろそろ1年と3か月くらい経った計算だ。 実は僕が後悔していることがひとつある。それは、